「月刊ドットワールドTV」#16 ヨルダン川西岸で見た対立と融和
マサーフェル・ヤッタのパレスチナ人住民を入植被害から守るイスラエル人活動家たち
- 2025/12/25
ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメディア番組『月刊ドットワールドTV』が、16回目のライブ配信を行いました。今回は、ナビゲーターを務めるドットワールド編集長の玉懸光枝が、ドキュメンタリー写真家の森佑一さんを東京のスタジオに招き、8bitNewsの構二葵さんとともに伝えました。
「10.7」後の分断を目の当たりにして双方を知ろうと決意
16回目となる番組は、「ヨルダン川西岸マサーフェル・ヤッタで見た対立と融和」と題し、12月24日の日本時間19時から8bitNews上で配信されました。
パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが2023年10月7日にイスラエルへ大規模奇襲攻撃を行い、イスラエル側も即日のうちにガザへの報復に踏み切った、いわゆる「10.7」から丸2年以上が経ちました。
2025年10月にはアメリカの仲介によって双方が停戦に合意し、人質の解放や、イスラエル軍のガザ地区からの撤退が一部進んだものの、10月28日にはハマスの停戦違反を理由にイスラエル軍がガザへの空爆を再開。さらに、今月中旬には、イスラエル軍がハマスの軍事部門の幹部を殺害し、ハマス側が反発を強めるなど、状況は依然として緊迫しています。
こうしたなか、ドットワールドは11月末、ドキュメンタリー写真家の森佑一さんによるルポ記事「ヨルダン川西岸マサーフェル・ヤッタで見た対立と融和」(2025/11/25付)を紹介しました。「10.7」後の2023年12月後半から二度にわたりパレスチナとイスラエルを訪ねた森さんが、特に心惹かれたというヨルダン川西岸マサーフェル・ヤッタの今について伝えています。
森さんは香川県出身。大学時代にピースボートに参加し、ヨルダンにあるパレスチナ難民キャンプにホームステイした経験から、イスラエル・パレスチナ問題をはじめ、中東問題に関心を持つようになりました。その後、JICA青年海外協力隊員(現・JICA海外協力隊員)としてヨルダンに2年間滞在し、2017年からフリーランスのドキュメンタリー写真家として取材活動を行っています。今回の記事の舞台となったヨルダン川西岸は、2018年に初めて訪問。その時は、2週間の滞在中、検問やチェックポイントで行われている移動制限を目の当たりにし、1948年のイスラエル建国以来、占領下に置かれているパレスチナの歴史を実感した一方で、見ず知らずの自分にも気前よく食べ物を振舞ってくれるなど、人々のあたたかさに触れたと森さんは話しました。
その後、「10.7」のニュースに強い衝撃を受けた森さんは、2カ月後の2023年12月と、2025年1月にもヨルダン川西岸を訪れます。6年ぶりの現地では、イスラエルに出稼ぎに行っていたパレスチナ人たちが仕事を失い、困窮している姿が印象的だったという森さんは、この時、パレスチナに加え、イスラエルの主要都市にも足を運びました。例えば、テルアビブ博物館前の「人質広場」では、「10.7」の際にハマスに連れ去られた人質の解放を訴えるアート作品の展示を目にし、ハイファではイスラエル人とパレスチナ人が一緒に活動するNGOの関係者と面談するなど、イスラエル側の視点も知ろうと努めたという森さん。その理由について「これまでパレスチナ人としか接点がなく、イスラエルやユダヤの人々との関わりが一切なかったことに気が付いた」「日本国内でもデモが各地で行われ、SNSにあふれる膨大な投稿にも深い分断があるのを見て、一方的な情報だけで判断したくないと思った」と、振り返りました。
「プロテクティブ・プレゼンス」を通じて変わった視点
そんな森さんが「特に心惹かれた」という場所が、ヨルダン川西岸南部に位置するマサーフェル・ヤッタだといいます。森さんはまず、乾燥した土漠が広がる丘陵地帯でパレスチナ人住民が羊を放牧しながら暮らす様子を紹介。また、「ユダヤ人が神から与えられた土地を取り戻す」ことを目的に、イスラエル人入植者がパレスチナ家屋や車を破壊したり、オリーブの木を伐採したり、井戸水を汚したり、暴力や恫喝を行ったりする「入植被害」が、「10.7」以降、特に深刻化しつつある現状を伝えました。特にこの地で被害が多発しているのは、マサーフェル・ヤッタが「エリアC」に位置しており、行政と治安がイスラエル軍の管轄下に置かれているためだといいます。つまり、イスラエル軍や警察が加害者である入植者を取り締まることはほぼなく、逆に、被害者であるパレスチナ人を何かしらの理由をつけて逮捕・勾留することが常態化しているのだといいます。
そのうえで森さんは、苦境下にあるパレスチナ人を支援するためにこの地を頻繁に訪れ、集落に入り込んでホームステイすることで入植者たちの嫌がらせを抑止するイスラエル人の活動家について紹介しました。食事や生活を共にしつつ、いざ問題が発生すると現場に急行し、超望遠ズームのカメラやスマートフォンで記録した写真や映像を弁護士に提出したり、SNSに投稿したりする彼らの取り組みは「プロテクティブ・プレゼンス」と呼ばれ、2000年代初頭から見られるようになりました。なお、こうしたイスラエル人の活動家とパレスチナ人住民の間の人としての関わりは、世界的に注目を集めた映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』でも詳しく描かれています。
さらに、現地で知り合ったイスラエル人活動家のイヤールさんと、彼とともに活動するパレスチナ人のサレムさんを通じて、「現地の人々を“イスラエル人”か、“パレスチナ人”かという属性を通して見る意識が薄まり、まず、“人”として向き合おうと考えるようになった」と振り返った森さん。ニュースで強調される暴力や被害のみならず、日々の暮らしや文化、人間関係などを含め包括的に描写しようと視点が変わったことも話しました。
「トランプ和平」の評価や、カンボジアとタイの和平合意危機も
番組では、これ以外の新着記事も紹介しました。
「社会を読み解く」からは、第二次トランプ政権にとって初となる「国家安全保障戦略」(NSS)のとらえ方を解説する福島香織さんの「第二次トランプ政権初となるアメリカの外交と安全保障政策文書が公表」(2025年12月21日付)をはじめ、シリアのアサド政権崩壊から丸1年が経ち、多くの人々が祖国へ戻る一方、国外や避難先から身動きが取れずにいる人々がいる現状を伝えるヨルダン在住の磯部香里さんの「ヨルダンから見るアラブ社会(第4話)」(2025年12月4日付)、福島香織さんの「高市首相の台湾発言に見る「怠慢外交」からの脱却と日中関係の行方」(2025年11月27日付)、アメリカ在住の岩田太郎さんの「イスラエルとガザの停戦 「トランプ和平」への評価とアメリカ社会の今」(2025年11月21日付)(2025年11月21日付)を紹介しました。
続いて、「報道を読む」からは、「失望のCOP30 「気候債務」の返済を求める途上国の声」(2025年12月18日付)、「タイとカンボジアの衝突再燃で和平合意に危機」(2025年12月10日付)、「イスラマバードのテロ事件で浮き彫りになったインドとパキスタンの深い溝」(2025年12月6日付)、「世界に広がる「Z世代フィーバー」https://dotworld.press/philippines_nepal_gen_z_fever/」(2025年12月1日付)、「逆風を受ける国際支援、アフリカの視点」(2025年11月28日付)、「アメリカのトランプ大統領が中国の習近平国家主席と6年ぶりに会談」(2025年11月19日付社説)、「高市早苗首相の誕生を南アジアはどう報じたか」(2025年11月17日付)、「停戦合意を「嘲笑」するイスラエルのネタニヤフ首相」(2025年11月14日付)、「今年のノーベル平和賞に向けられる冷ややかなまなざし」(2025年11月12日付)を紹介しました。
さらに、「世界写真館」からは、満天の星空の下にたたずむ白いゲルと、立ち上る一筋の煙をとらえた写真家の小池隆さんの「星空の下のゲル(モンゴル)」(2025年12月23日付)と、夕暮れ時に川面が黄金色に輝く瞬間をとらえた旅フォトグラファーの三田崇博さんの「ザーヤンデ川の夕日(イラン)」(2025年12月3日付)を紹介しました。
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