今年のノーベル平和賞に向けられる冷ややかなまなざし
選考委員会の判断の影に見え隠れするアメリカのトランプ大統領の存在感

  • 2025/11/12

 2025年度のノーベル平和賞は10月10日、ベネズエラの反体制派指導者マリア・コリナ・マチャド氏(58)に授与されることになった。しかし、一部にはマチャド氏への平和賞授与に批判的な意見もあり、賛否両論の受賞となった。
 賛否をさらに深めたのは、マチャド氏が受賞直後に、「この賞を、苦しむベネズエラの人々と、私たちの大義を決定的に支持してくれたアメリカのトランプ大統領にささげる」とSNSに投稿したためだ。トランプ大統領もマチャド氏に電話し、祝意を伝えている。
 今年のノーベル平和賞に対する「複雑な思い」は、各国の社説にもあらわれている。

ベネズエラのバレンシア弁護士会で開かれた記者会見に出席したマリア・コリーナ・マチャド氏 (c) wikimediacommons

インドネシアの社説はマチャド氏の適性を疑問視

 インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは、10月14日付の社説で「妥協したノーベル賞」と題し、この問題を論じている。
 社説はマチャド氏への授与について、「ノーベル賞の選考委員会は、ベネズエラの解放に向けて非暴力で取り組んだマチャド氏が平和賞にふさわしいと確信している。しかし、この選択には、自らこの賞を要求していたトランプ大統領を慰めるという目的もあったことは明らかだ」と述べ、次のような見方を示した。
 「マチャド氏は、受賞が決まると直ちにトランプ大統領に電話をかけた。両者は、ベネズエラのマドゥロ大統領と敵対しているという点で共通しており、トランプ大統領にとって今回のマチャド氏の受賞は安心材料になるうえ、トランプ大統領はあらゆる手段でマドゥロ大統領を打倒すると公言しているため、マチャド氏もトランプ大統領を必要としている」
 さらに社説は、マチャド氏の政党である「ベント・ベネズエラ」が、イスラエルのネタニヤフ首相率いる極右政党の「リクード」との間で戦略的提携協定に署名したことにも触れ、「受賞後にマチャド氏とトランプ大統領が接触した事実には、確かに疑問が残る」と述べている。

過去の受賞者の選考プロセスも批判するインド

 一方、インドの英字メディア、タイムズオブインディアも、10月7日付けの社説でマチャド氏のノーベル平和賞受賞について痛烈に批判している。
 社説はまず、「トランプ氏がなぜノーベル平和賞をほしがるのか謎である」と指摘し、「受賞者したのは、あやしげな面々ばかりだ」「非暴力・不服従で知られるインドの政治指導者、マハトマ・ガンジーはノーベル平和賞の候補にノミネートされながら授与に至らなかったが、ヘンリー・キッシンジャー元アメリカ大統領や、ミャンマーで軍がクーデターを起こすまで国家顧問兼外相だったアウンサンスーチー氏と同じ賞を得ることがなくてよかった」と、皮肉る。社説は、キッシンジャー氏について、「カンボジアとラオスへの爆撃に関与し、ベトナム戦争を長引かせた」と述べ、アウンサンスーチー氏については、「ロヒンギャに対する迫害を擁護した」と指摘する。
 また社説は、トランプ大統領が「自分が止めた」と主張する7つの戦争には、インドとパキスタンの対立も含まれており、パキスタン政府が「トランプ大統領は平和賞にふさわしい」と称賛していることにも触れ、「選考委員会は、2026年もトランプ大統領をノーベル平和賞の候補者レースに残すだろう」としたうえで、「もし受賞が難しそうなら、日本の佐藤栄作・元首相の手法を学べばよい」と皮肉たっぷりに指摘し、こう述べている。「佐藤氏は、実業家の友人を介してノーベル委員会に働きかけ、賞を勝ち取ったのだから」
                          *
 今年の平和賞に両紙の社説がむける冷ややかな視線の背後にいるのは、トランプ大統領だ。インドネシア紙が言う通り、「ノーベル委員会が正しい判断を下したかどうかは、時が証明するだろう」。

 

(原文)
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/noblesse-oblige/
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2025/10/13/compromised-nobel-prize.html

 

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