タイとカンボジアの衝突再燃で和平合意に危機
国境での衝突を政治的駆け引きに利用か 両国の紙面に見る互いへの不信感
- 2025/12/10
国境周辺で衝突を繰り返すタイとカンボジアの関係が悪化している。今年5月に国境地帯で交戦し、カンボジア人兵士1人が死亡したことをきっかけに、両国の対立は深刻化。10月には米国やマレーシアの仲介で和平合意に至ったが、タイ側が11月10日、和平合意の無期限停止を表明した。
地元紙などの報道によると、タイ政府側は、停戦合意後に地雷によって兵士が負傷したことについて、その責任はカンボジア側にあるとした。11月12日に発生した銃撃戦ではカンボジアの民間人1人が死亡。その後、12月9日にはタイ空軍がカンボジアの弾薬貯蔵施設を空爆するなど、停戦合意が危機に直面している。11月の銃撃戦後の両国の報道ぶりを振り返る。

カンボジアとタイの和平協定の署名前日に、仲介者のドナルド・トランプ大統領(左から二人目)とマレーシアのアナワル・イブラヒム首相(左端)とともに記念撮影に臨む、カンボジアのフン・マネット首相(右端)とタイのアヌティン・チャーンウィラクル首相(右から二人目) (2025年10月25日撮影)(c) White House/Wikimedia commons
「カンボジアへの軍事作戦は賢明ではない」と訴えるタイ紙
タイの英字紙バンコク・ポストは11月13日付の社説でこの問題をとりあげた。
社説は、アヌティン首相がカンボジアに対する全面的な軍事作戦を承認したことについて、「賢明な選択ではない」と警告した。社説は、「カンボジア側が現在、世界が注目するオンライン詐欺ネットワークへの対応に失敗したことを覆い隠すためにタイとの国境で騒ぎを起こしたいのだ」と指摘する声があることを紹介したうえで、「これはプノンペンによるおなじみの戦術であり、冷静な判断が求められる」としている。
そのうえで社説は、タイ側がなすべきことを列記している。第一に「長期的な国益を視野に入れ、軍事力ではなく外交主導の政策を続ける」こと。第二に、国際条約で禁止されている地雷の使用など、「カンボジアの不正行為を暴く証拠を収集する」ことだ。その一方で、「和平合意を完全に放棄する必要はない」として、「合意がタイの利益になるよう調整すべきだ」とも主張している。
カンボジア紙はタイと中国の接近に危機感
一方のカンボジア側は、どのような主張を繰り広げているのか。英字紙クメール・タイムズは、11月17日付で「アメリカと中国の間で危険かつ狡猾な駆け引きを続けるタイ」と題した社説を掲載した。
社説は、「一連の衝突の背景には、タイによるアメリカと中国の“危険な駆け引き”がある」と指摘する。社説はまず、タイと同盟国であるアメリカとの関係について、「距離が広がりつつある」と分析する。アメリカがタイに対して、関税関連の貿易協定と引き換えにカンボジアとの和平合意やレアアース取引を迫っており、タイ側が不信感を募らせているというのだ。トランプ大統領が「仲介した」と自賛するカンボジアとの和平合意についてタイ側が終始、消極的であることも、タイとアメリカの関係が冷え切っていることを示している。
では、タイと中国との関係はどうか。社説は、「タイは、アメリカとは逆に中国との距離を縮めている」と見る。アメリカのシンクタンクによると、タイの中国からの武器調達量は、アメリカからの調達量を上回っているという。さらにタイは今年9月に中国と共同空軍演習を実施している。
一方のカンボジアも、中国とは親密な関係を維持してきた。社説は「カンボジアと中国は鉄壁の友好関係にある。その中国がタイと空軍演習を行ったことは、タイの不法侵攻に苦しむカンボジア国民の心に痛みを刻んだ」と嘆く。そのうえで社説は、「カンボジアは不幸にも、米中の地政学的な競争におけるタイの危険な駆け引きに巻き込まれてしまった」と指摘している。
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今回の国境衝突について、タイ紙は「カンボジアのフン・マネット政権が自らの失策から国民の目をそらさせるために国境紛争を利用した」と主張し、カンボジア紙は「タイが米中両大国との駆け引きの道具として国境紛争を利用している」と主張する。互いへの不信感が衝突へとつながっているとしたら、この対立の解決策を見つけることは極めて困難だと言わざるを得ない。
(原文)
カンボジア:
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/3136080/landmine-sparks-fear












