肌の漂白剤で蝕まれる健康と美(下)
ケニア女性が白くなりたいと願う理由

  • 2019/9/19

 一口に「肌が黒い」と言っても、漆黒のような色から褐色まで、さまざまな「黒」が存在する。実際、ケニアの人々は、民族や住んでいる地域によって肌の色も異なる。これは、アフリカの他の国々でも同様だ。

ケニアにある日本食品卸売店で働く看板娘の女性たち。肌が黒いと一言で言っても、肌の色も髪の毛もさまざまで、皆、自分に合ったお洒落を楽しんでいる(著者撮影)

 ジョアンには、忘れられない女性がいるという。漂白剤をあまりに頻繁に使用していたため、心配した夫が相談に連れて来たのだった。なぜ漂白剤を使うのかとジョアンが尋ねると、彼女は「自分は女優だが、肌が黒いため家政婦の役しかやらせてもらえない。肌の色が明るい女優に仕え続けるのが嫌になった」と答えたという。「女性にとって、美とは、社会が決定し、その基準に従うよう要請されるものです。しかし、それは誤りです。美とは、いわばビュッフェであり、アラカルトではありません。多様な美を認めるべきです」と、ジョアンは強調する。

 もちろん、ケニア男性にも、背が高く、肌が黒く、ハンサムであることが良い男性の条件として課せられる。しかし、それでも男性にとっての美のハードルは、女性に比べればとても低い。テレビのキャスターになろうとする時、男性の場合はちょっとしたユーモアと個性的な声があれば十分だが、女性の場合は大きなお尻、明るい肌、そしてウェーブがかった長髪が必須だ。「ケニア女性に求められる美のハードルが高すぎるために、多くの女性が苦しんでいます。わたしたちは、すべての女性が美しいのだというメッセージを、多くの女性に届けたいと思っています」

 ジョアン自身、これまでに「君はかわいいね。肌が黒い割には」という「最低で馬鹿げた」誉め言葉を言われたことがあるという。こんなセリフが誉め言葉だとされること自体、驚くべきことだが、これを言ったのが、彼女と同じ黒い肌のケニア人男性であったことも、悲しい皮肉だと言えよう。

 ケニアでは、明るい肌の女性のことをスラングでランギ・ヤ・タオ(rangi ya thao:1000シリングの色)と呼ぶという。明るい肌こそ価値がある、という意味だ。ジョアンは、「私の母は明るい肌をしているので、私はよく自分は500シリングよ、と言っていました。母と私はよく似ているのですが、肌が明るい分、母の方が美人だと思われることが多かったのです」と振り返った上で、「私は、ケニアだけでなく、アフリカの他の国々にも共通するこうした価値観を変えたいのです」と力強く語った。

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