ミャンマーのクーデターは米制裁で打開できるか
中国の存在感の前に効果は限定的との見方も
- 2021/2/21
長期的な影響力で現実的な解を
こうして見てくると、制裁によって民主化の即時復活を実現したいミャンマーの人々の期待に米国がすぐに応えることは難しそうな様相だが、前出のウォルト教授は、「長期的に見れば、米国はミャンマーに影響力を持ち得る」と期待を寄せる。ミャンマーで絶大な影響力を誇る覇権国の中国パワーが「両刃の剣」であるというのが、その理由だ。
ウォルト教授は、「超大国である中国にとって、隣国ミャンマーは、戦略上、不可欠であるからこそ、ミャンマー国軍は、その地政学的な立場をうまく利用して中国から有利な条件を引き出しているが、その一方で、中国一国に依存するのもまた、ミャンマーの独立にとっては望ましい状態ではないため、国軍は、米国や欧州、近隣諸国とも良好な関係を維持し、中国リスクを“ヘッジ”する必要がある」と指摘。その上で、「バイデン大統領はそうした背景を最大限に活用し、民衆を暴力的に弾圧することを国軍に思いとどまらせると同時に、軍の顔を立てつつ方向転換を迫るべきだ」との見方を示す。
つまり、これまで欧米諸国が進めがちだった「一気に民主化を求めるやり方」ではなく、ミャンマー国民や与党国民民主連盟(NLD)、そして国軍、すべてにとって受容可能な、かつ現実的な「解」を追求すべきであり、それこそが長期的に見て中国の覇権的な野望を抑えることにもつながる、というのが教授の主張だ。またウォルト教授は、「国軍が今回、つぶそうとしたのは形式的な民主主義に過ぎず、クーデター以前の民主化も本質的には部分的なものに過ぎなかった」と看破した上で、バイデン政権に忍耐強い対応を求めている。
経済制裁の面からも、道義的な面からも、ミャンマーの民衆が望むような形では助けになれない可能性が高い米国。国軍との対峙を続けている人々は、その現実を直視した上で、国軍の武力鎮圧を回避しつつ、集団的なパワーと国際的な支援をテコにどれだけの譲歩を国軍から引き出し民主化を取り戻せるのか、ギリギリの交渉力が求められている。