北京五輪ボイコット論と米国の本気度
スポーツと政治とビジネス、絡み合う思惑と中国の圧力
- 2021/4/13
14億市場と欧米企業
このように、バイデン政権は北京五輪への選手の不参加をちらつかせたものの、国内世論は「選手団は派遣し、中国共産党に対して経済的・外交的なボイコットを展開する」というコンセンサスができ上がりつつあるように見受けられる。
しかし、その経済的なボイコットを仕掛ける側の米企業が、14億人という中国の巨大市場を失うリスクに耐えられるのか、疑問視する声も上がっている。
有力な日刊ニュースレターである「モーニングブルー」は3月24日、「欧米有力企業はこの巨大市場でシェアを確保するため、これまで中国共産党に数々の譲歩を行ってきた。もし、新疆で起こっていることについて今さら非難などしようものなら、長年の投資の成果がたちまち吹き飛ばされるだろう」と解説し、次のように指摘した。
「全米プロバスケットボール協会(NBA)のチームの一つであるヒューストン・ロケッツのダリル・モリー・ゼネラルマネジャーが2019年10月に香港の抗議デモについて自身のツイッターで支持を表明したことで、中国国内で配信権を有するIT大手のテンセント(騰訊)がNBAの試合の配信を一時中断し、何億ドルもの損失が生じた。イングランドプロサッカーリーグに加盟するアーセナルFCのメスト・エジル選手がウイグル人の虐待に批判の声を挙げた際も、中国はすべてのアーセナル戦の放映を禁止したではないか」
米国をはじめ西側諸国が北京五輪を経済的あるいは政治的にボイコットした場合に中国がどのような対抗処置を取るかを考えると、多くの欧米企業が人権問題より14億人市場を重視して中国共産党に屈し、思惑通りに事が進まない可能性が高いように思われる。筆者には、北京五輪を経済的にボイコットしようという議論は詰めが甘いような気がしてならない。
事実、民主党寄りの有力シンクタンクであるブルッキングズ研究所のマイケル・オハンロン上席研究員は4月8日、ワシントン・ポスト紙で「中国を悪者にしても米国が得るものは少ない」と論じており、政府も企業も本心では人権問題を理由に北京五輪をボイコットしたくない様子が見て取れる。「経済ボイコット」の効果のほどは、米企業がどれだけ中国事業を犠牲にする覚悟を固められるか否かにかかっている。