イギリスで「人種差別反対」集会 偽情報の危険さを象徴
多様性に支えられた国で「移民排斥」の矛盾 ヘイトに対する反発も
- 2024/9/25
イギリスで7月末から8月初めにかけて、外国人移民の排斥を主張する極右の暴動が全土に広がった。きっかけとなったのは、ある殺人事件をめぐる偽情報だ。
犯人は「ボートで来たイスラム教徒」?
イギリス・リバプール近郊のサウスポートにあるダンス教室で7月29日、3人の少女が刃物で殺害された。警察は容疑者の少年を逮捕したが、この少年が、実際には英国生まれだったにも関わらず、「ボートでイギリスに来たイスラム教徒」であるとの誤った情報がソーシャルメディアで拡散された。
この偽情報をきっかけに、翌日から極右グループが「移民排斥」を訴え、モスクや、難民申請者が宿泊するホテルなどを襲撃。さらに、暴徒化した人々が店舗への放火や略奪を行うなど、極右の暴動がイギリス全土に広がった。
これに対し、人種差別などに反対する大規模なデモ集会も各地で起きた。8月7日には、数千人規模の集会がイングランド各地で開かれ、集まった人々は「難民歓迎」「人種差別に反対」「人種差別者は町から出ていけ」などのプラカードを掲げた。なかには、5000人以上が集まった場所もあったという。
こうしたイギリスでの一連の動きに、各国のメディアも反応した。ここでは南アジアの新聞各紙の報道ぶりを紹介したい。
憎悪に対しては団結して反抗を
パキスタンの英字紙ドーンは、8月13日付で「英国のヘイトに対抗する」と題した社説を掲載した。
社説が注目したのは、極右グループの暴動に対抗して立ち上がった人々の行動だ。社説は、極右の人々が、殺人事件を利用して「分断の種」をまこうとしたことに対し、「さまざまな背景や信仰を持つ勇敢な人々が、肩を並べて立ち上がった」と讃えた。
また、彼らの行動は、「憎悪に満ちた暴言には、沈黙ではなく、団結して反抗する必要があることを示した」と評価。「イギリス各地で人種差別に反対するデモが起きたことは、この国に安堵をもたらした」として、「希望の光」と表現した。
社説は、「この国に憎しみのための場所はない」という彼らのメッセージに深く共感を示し、「今日のイギリスの強さが、その多様性にあることを力強く思い出させるものだ」と述べる。そこには、イギリスが何世代にもわたり移民を受け入れてきた歴史、そして移民たちがイギリス社会で積み重ねてきた成果や貢献がある。「極右の排外主義的な訴えは、イギリスを繁栄させた価値観を脅かすものだ」と社説は断じ、多様性の否定がイギリスの根幹を揺るがしかねないことを指摘した。
ソーシャルメディアの功罪
インドの英字メディア、タイムズオブインディアは、この騒乱について別の側面からアプローチした。本紙が8月4日付の社説で指摘したのは、インターネット上にあふれる偽情報の危険性だ。
社説は、今回の暴動のきっかけが容疑者の少年が「移民」であったとの誤情報だったことについて、「ソーシャルメディアで拡散される偽情報が街の平和を破壊することは、残念ながら、インド人自身がよく知っていることだ」と指摘した。
社説によると、インドではフェイクニュースの拡散により、さまざまな事件が引き起こされてきた。例として社説は、複数の州で罪のない人々が「盗み」の疑いで殺害されたことや、ソーシャルメディアへの投稿をきっかけとして暴力事件が発生した事例などを挙げる。
社説は、警察が容疑者の身元を公表するまでのたった数日の間に、ソーシャルメディアによって偽情報があっという間に広がったこと、そして、ソーシャルメディア企業が「暴力の扇動に対する取り締まりをしていないこと」もこの状況を助長している、と非難している。
(原文)
パキスタン;
https://www.dawn.com/news/1851971/countering-hate-in-uk
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/riots-wrongs/