『月刊ドットワールドTV』#14 ミャンマーの人々の思いと覚悟を伝える理由
グローバル化が強まる世界で日本に問われる責務とは

  • 2025/10/17

 ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメディア番組『月刊ドットワールドTV』が、14回目のライブ配信を行いました。今回は、ナビゲーターを務めるドットワールド編集長の玉懸光枝が滞在先のラオス・ルアンパバーンからオンラインで8bitNews東京スタジオの構二葵さんとつなぎ、ミャンマー関連の取材を精力的に続ける東京新聞の北川成史さんと、『ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか』(ホーム社)の著者、西方ちひろさんとともに伝えました。

タイ国境地域の複雑な勢力関係と人生が一変した市民たち

  14回目となる番組は、「クーデターに抗い続けるミャンマーの人々の思いを伝える」と題し、10月15日の日本時間21時から8bitNews上で配信されました。

 2021年2月1日に軍事クーデターが起きたミャンマーでは、実権を握った国軍と、民主派や少数民族との戦闘が今も各地で続いています。番組の前半では、今年8月中旬、激しい戦闘が続くミャンマー東部カイン(カレン)州のタイ国境地域を訪ねた北川さんが、ドットワールドに寄稿した二つの上下連載、計4本のルポ記事について振り返りました。

 このうち「ミャンマー東部 ジャーナリストが見た国境地」と題した(上)(下)(2025/9/25付、および2025/9/26付)では、国境貿易の町ミヤワディの北方にあるカレン民族同盟(KNU)の実効支配地域で開かれた民族の英雄を悼む行事で北川さんが見た少数民族カレン人の組織間の微妙な関係や、その南方の村を6年ぶりに訪れ目の当たりにした内戦の爪痕が描かれています。

 北川さんはまず、KNUの初期指導者、ソーバウジーの命日である8月12日に開かれた「殉難者の日」の式典に、KNUから分裂した勢力で形式上は国軍傘下のカレンBGF(国境警備隊)が参列した様子を紹介しつつ、民族的な紐帯や利害が絡み合う組織間の複雑な関係性を指摘しました。また、民主派の国民防衛隊(PDF)を志す都市の若者が商用や帰省を装ってジャングルに入り、KNUに軍事訓練を受けるケースも少なくないと話しました。

 続いて、日本が住宅建設などを支援し、「ピースタウン(平和の町)」と呼ばれていたレイケイコー村について、国軍がクーデター後に空爆や砲撃を行い、約3000人いた住民の多くが避難を余儀なくされたと指摘。家屋の屋根が破壊され、壁には無数の銃弾痕が空いて荒廃している様子を伝えました。さらに、近接するオンライン詐欺拠点兼カジノ「KK パーク」は無傷で稼働していることにも触れ、「利益の一部が国軍に渡っているためでは」との見方を示しました。

 続いて、「ミャンマークーデター4年半 抗い続ける人々」と題した(上)(下)(2025/10/10付、および2025/10/11付)では、クーデター後に非武装の女性を射殺して平然としている上官に衝撃を受けて国軍から離脱することを決意し、逃亡先のタイから現役兵士らの「洗脳を解く」ために発信を続けている元兵士や、その妻で、離脱した兵士の妻たちに小規模ビジネスを営む資金を支援する女性、また、都会での職を捨て、PDFとして武器を取ったり物資の供給支援を行ったりしている若者たちの胸の内が描写されています。

 北川さんは、「国を守りたい」との思いで国軍に入り、エリートコースを歩むはずだった元兵士の人生がクーデターで一変したことや、現在、戦闘に加わっているPDFの若者たちがもとは政治に強い関心があったわけではなく、コンビニ経営者や宝石商、中古バイク商、あるいは看護師などとして仕事に励んでいたことに触れ、「クーデターがなければ、今ごろはそれぞれの道でキャリアを積み、才能を発揮できたはず」だと指摘。「甚大な人材の喪失を招いたクーデターがいかに愚かな行為だったか痛感する」と訴えました。

発信が限られていた現地から日本に伝え続けた人々の姿

 いわゆる「普通の」若者たちが、非暴力によるクーデターの抵抗を諦めてPDFに加わり軍との闘いに身を投じることを決意する様子は、西方さんの著書『ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか』でもリアルに描写されています。

『ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか』(著者:西方ちひろ、発行:ホーム社、発売:集英社)

 国際協力の仕事のため数年にわたりミャンマーに滞在し、最大都市ヤンゴン市内の自宅でクーデターの発生を知った西方さんは、仕事関係者や友人ら身の回りのミャンマー人の行動や言葉、切なる思いに心打たれ、自分の周囲で起きている事象や人々の発言をSNS上で頻繁に発信するようになりました。奪われた未来を取り戻そうとクーデターに非暴力で抵抗し続けていた人々が、「日本もほかの外国もアテにしない」「自分たちで闘うしかない」と発言するようになる様子をリアルタイムで記録した一連の投稿に編集と加筆修正を加え、9月末に出版したのが前出の書籍です。登場するミャンマー人や関係者に軍の嫌がらせが及ばないように顔も本名も伏せた、いわゆる覆面著者です。西方さんには玉懸がインタビューして記事「西方ちひろ著『ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか』が出版」(2025/10/2付)を執筆しています。

 西方さんはまず、クーデター直後の人々の様子について、「彼らはいくら平和的にデモをしても軍政が倒れないことを理解したうえで、自分たちの行動が外国に伝わり軍に圧力をかけてもらえることを期待していた」と指摘。「彼らの姿を日本に伝えることは、この場に居合わせた、言論の自由を保障された日本人である自分の責任だと感じていた」、「民主主義が一瞬で失われ社会が崩壊する脆さと、無実な人々が権力に殺されていく目の前の現実は、日本への教訓でもあると感じた」と話しました。他方、「日本に帰ることができる自分は、クーデターによって未来が失われていくことに対して彼らが抱いていた焦燥感を、本当の意味では理解できていなかったと思う」と続けました。

 これを受け、北川さんは「コロナ禍でミャンマーへの入国が厳しく規制されていた時期にクーデターが起き、ジャーナリストも含めミャンマー国外から人が訪れ状況を伝えることが難しかったなか、現地で直に接した状況を伝えていた西方さんのSNSと今回の書籍は、とても価値がある」「現地にいなければ分からないクーデター後の日一日の変化や、人々の微妙な心の動きが継続的にまとめられている点が貴重」だと話しました。

 また、12月28日からミャンマーで総選挙が実施されることについて、北川さんは「クーデター前に政権をとっていたアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)を排除して行われる、この非常に恣意的な総選挙にどう対峙するのか、日本の姿勢も問われている」として、「日本の人たちにも改めて関心を持ってほしい」と呼びかけました。続いて西方さんは、「(イスラエルの空爆が続いていた)パレスチナのガザ地区や、(ロシアから侵攻を受け戦闘が続く)ウクライナのような国同士の対立に比べると、ミャンマーは内戦であるため注目されにくいと聞くが、軍政はロシアや中国からの支援を受けており、グローバル化した世界の問題であるのは同じ」と述べ、「日本は同じアジアの国として、また、戦時中も深く関わりがあった国として彼らを見捨ててはいけない」「人々の覚悟はクーデター直後から今まで変わっていない。これからも寄り添い続けたい」と話しました。

「社会主義独裁三兄弟」の裏側に見えるもの

 番組の最後には、それ以外の新着記事も駆け足で紹介しました。

 「社会を読み解く」からはまず、中国の習近平国家主席が9月3日に北京で開催した軍事パレードについてジャーナリストの福島香織さんが執筆した「中国が「9・3軍事パレード」で世界に発したメッセージの裏側」(2025/9/22付)を紹介しました。パレードにはロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記が参加し、「社会主義独裁三兄弟」の絆が世界にアピールされましたが、福島さんはその背景に習氏の不安と焦りがあると指摘します。

 続いて、トランプ政権下で「援助より貿易」という方針が既定路線化しつつあるアメリカの対アフリカ政策に関する現地在住ジャーナリストの岩田太郎さんの分析「援助より貿易へ 大きく舵を切ったアメリカの対アフリカ政策」(2025/10/13付)も紹介しました。

 「報道を読む」からは、「相次ぐパレスチナの国家承認、連帯の真価を問われる国際社会」(2025/10/10付)、「ドーハを空爆したイスラエルに東南アジア諸国でも高まる非難」(2025/10/9付)、「「最も深刻なレベル」にあるガザの飢饉に今すぐ行動を」(2025/9/29付)、「インドに対し「トランプ関税」50%を発動したアメリカ」(2025/10/5付)、「バングラデシュでロヒンギャ情勢に関する国際会議が開催」(2025/9/24付)の記事を紹介しました。

 「世界写真館」からは、写真家の茂木智行さんがルーマニアの駅で出会った陽気で気さくな駅員の笑顔が印象的な「駅員(ルーマニア)」(2025/10/8付)と、長年、ミャンマーの人々を撮影している写真家の亀山仁さんがヤンゴン市内の通りを渡る托鉢僧たちにシャッターを切った「【Pray for Myanmar】都会の托鉢」(2025/10/12付)を紹介しました。

                   *

 ドットワールドは、これからも記事や写真、そして2024年9月に始まった8bitNewsとのクロスメディア番組「月刊ドットワールドTV」を通じて、現地の人々から見た世界の姿やさまざまな価値観、喜怒哀楽を伝え続けることで、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を実現する一助となることを目指します。

 引き続きご支援のほど宜しくお願いいたします。

 

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