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『月刊ドットワールドTV』#5 インドに逃れたミャンマー難民のいま
クーデターから4年を前に3メディアが連携して「見過ごされた人々」を考える
- 2025/1/31
ドットワールドとインターネット上の市民発信サイト「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメディア番組『月刊ドットワールドTV』が5回目のライブ配信を行いました。今回は、ナビゲーターを務めるドットワールド編集長の玉懸光枝が東京の8bitNewsのスタジオから構二葵さんとともに伝えました。
避難生活の長期化で疲弊するミゾラム州のキャンプを取材
5回目となる番組は、「クーデターから4年 見過ごされたミャンマー難民 今必要な支援とは」と題し、2025年1月29日の日本時間19時から8bitNews上で配信されました。
ゲストトーク「ドットワールドCross」では、西日本新聞記者で佐賀在住の丹村智子さんをゲストに招き、丹村さんが2024年12月に3日連続で「社会を読み解く」に寄稿した記事「届かぬ支援 インドに逃れたミャンマー難民の今」(第1回)(第2回)(第3回)をもとに対談しました。
ミャンマーでは、2021年2月1日に起きた軍事クーデター以降、国軍と武装勢力の戦闘や弾圧を逃れるために、自宅を離れて避難する人々が急増しています。国連は2024年11月27日、避難を強いられた人々の総数が340万人を超えたと発表しました。海外に逃れた難民の多くは陸路で国境を越え、タイやインドで避難生活を送っています。
こうしたなか、丹村さんは2024年11月、ミャンマー北西部のチン州から避難してきた人々が多く住むインド北東部のミゾラム州にある避難民キャンプを訪ねました。丹村さんは番組の冒頭で「ミャンマー国内は混乱が続いており、これまでに6000人以上の民間人が亡くなったと伝えられているが、正確な数字は明らかではなく、被害の実態は計り知れない」と指摘したうえで、「戦闘や空爆により避難を余儀なくされている人々が360万人を超え、近隣諸国に逃れた人々は15万人近くいる」と話しました。
さらに、ミゾラム州がある北東部は、首都デリーがある広い方の国土と幅わずか20kmの細い領土でつながっている一方、ミャンマーとは、日本の本州を縦断するよりも長い1600km以上にわたって国境を接していると説明。なかでもミャンマー・チン州から逃れてきた避難民が特に多く住んでいるのがミゾラム州で、国境の町、ゾーカタールにある避難民キャンプでは、状況の長期化によって疲弊の色が強まりつつある、と語りました。ビニールシートが壁代わりの8畳ほどの簡素な居住スペースや、炊事場で調理する女性たちの様子など、丹村さんが現地で撮影した動画や写真も併せて紹介しました。
ビルマ戦線に従軍した祖父が残した日記
チン州はミャンマーの中でも僻地に位置し、もともと開発が遅れていたうえ、クーデターに対する人々の抵抗運動が強かったため、空爆によって大きな被害が出ています。丹村さんは、「多くの住民が家や村を焼かれ、避難を余儀なくされている」と指摘したうえで、「同じようにミャンマーから国境を越えた難民でも、タイ側に逃れた人々の様子は、以前から難民や政治犯の受け入れを支援してきたNGOやメディアなどにより比較的、発信が見られるのに対し、インド側に逃れた人々の情報は極めて限られている」と、危機感を示しました。
さらに丹村さんは、ミゾラム州はほぼ山岳地域で首都デリーからのアクセスが悪いうえ、他の主要都市と言葉も宗教も異なり、住民の顔立ちはミャンマー人に近いことからインドの大部分の人々にとって距離的にも心理的にも遠く、この地域に光が当たりにくいのではないか、との見方を示しました。
他方、避難民キャンプの人々は地元ミゾラム州の人々にあたたかく受け入れられているといいます。丹村さんは、「ミゾラム州の計らいによってキャンプでは電気が無料で使えるうえ、避難民の子弟を公立学校で受け入れている」と紹介し、「ミゾラム州とチン州が民族的にも文化的にも近いことが背景にある」と話しました。そのうえで丹村さんは、2024年12月にはインド政府がミャンマー国境にフェンスの建設を開始したことを挙げ、ミゾラム州議会が全会一致で反対を表明したものの、同州を含む北東3州への外国人の入境が制限されるようになったと指摘。「クーデター以降、ミャンマー側でケシ栽培が増加しインド側にも広がりつつあるなか、武装勢力が麻薬の取引で資金をたくわえることを警戒しているのではないか」との見方を示しました。
また、「キャンプには、空爆や徴兵制から逃れてきた人々だけでなく、元国軍や元警察官も住んでいる」と指摘。これを受けてスタジオ側が「背景の違いによる避難民同士の軋轢はあるか」と尋ね、丹村さんが「ひとたび軍隊や警察を辞めれば、民主化を求める同じ仲間として受け入れられているようだ」と答える場面もありました。
丹村さんは、かつてビルマ戦線に従軍した祖父の日記を読んだことを機にミャンマーへ渡り、北から南まで足取りを辿って西日本新聞で連載した経験があるといいます。それ以来、「ライフワークとして」ミャンマーを取材している丹村さんは、「ミャンマーの問題は長期化により複雑化しているが、難民に対する人道支援は急務」「食糧不足がこれ以上、深刻化すれば、日本の被災地で見られる災害関連死と同じ状況が増え、今後、ミャンマーの復興を担うべき若者の成長の機会も奪われる」と指摘。「ミャンマーは、かつて旧日本軍によって戦場にされた国であるからこそ、和平の実現と復興に向けて日本が力を尽くしてほしい」と訴えました。
民族の観点から読むミャンマー クーデター直後のタイの社説も
続いて、その他の新着記事を紹介する「ドットワールドUPDATE」では、「社会を読み解く」から「ミャンマー(ビルマ)知・動・説の行方」(第0話)(第1話)(第2話)(第3話)を取り上げました。これは、ミャンマーをフィールドに、特にビルマとシャンの関係に注目してきた文化人類学者の髙谷紀夫さんによる全15回の連載で、2025年1月8日より毎週水曜日に1話ずつ公開しています。多民族国家であるにも関わらず民族の観点から語られることが少ないミャンマー社会を立体的、かつ柔軟に読み解くために、毎回、過去に現地で開かれた文化イベントを取り上げ、民族同士の関係の特異性や、各民族の中にある多様性に注目しながら、文化と社会のリアリティに迫ります。
一方、いま改めて注目したい記事をピックアップする「ドットワールドArchive」として、「報道を読む」から「ミャンマーでクーデター、タイはどう報じたか」と、「ミャンマーは助けを必要としている」の2本を取り上げ、ミャンマーで2021年2月1日にクーデターが発生した翌日と、約1カ月後に、隣国タイの英字紙がどのようにミャンマー情勢を報じたのか振り返りました。
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2019年7月にスタートしたドットワールドは、この夏、創刊5周年を迎えました。これまでのご愛読と応援に心から感謝いたします。節目のタイミングでご縁をいただいた8bitNewsとのクロスメディア番組「ドットワールドTV」を通じて、一層多くの方々に記事をお届けできれば嬉しいです。ぜひご視聴ください。
ドットワールドはこれからも世界の人々から見た世界の姿や彼らが大切にしているもの、各国の報道ぶりや現地の価値観を喜怒哀楽とともに伝えることで、多様な価値観を理解し、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を築く一助となることを目指します。引き続きどうぞ宜しくお願いします。